食傷概念−complex ad manias−
理由は・・・と問われ、一つグラスを差し出した。
窓の外から乞食がこちらを眺めている。
暴動で驚嘆する声が聴こえ騒がしい。
お辞儀をして外に出た。
老婆に道を示され、私は公道に出た。
商いをする子供や老人、
その顔はどこも明瞭さが無く、霧が深い。
波止場には舟も無く、近代の末裔達が右往左往している。
「ところで…」
隣に居合わせた紳士が唐突に話し始めた。
無風になびく紳士のハンカチに違和感があったが、彼は不空について話し始めた。
連れ立った老婆もまた隣で維摩経を唱えている。
すると私の目の前を一隻の船が通り過ぎた。
一反の帆を掲げた船は舵をきって外洋へ向かっていった。
紳士が呟く。
「不空不浄、無色即全、全即無空、不可思議陽日、全即無空
相現不可思議、亦色即現有、体即見遇。」
「ぼっちゃん、車が来ましたよ。」
老婆につれられ馬車へ向かう。真っ黒な馬が一頭とよく肥えた御者がいた。
乗ろうとすると紳士に「現有紀」なる本を一冊手渡された。
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我、維摩居士也。
然らば、その瀬を見つめんとす。
光なれど、是然らば、見ず。
闇なれど、是然らば、見ず。
未だ此の際、それを見聞し、我維摩とす。
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老婆は笑みを浮かべ、片目の義眼を光らせていた。