成功の素

 

人生において、失敗だとか、成功だとか、とりわけ雑誌「プレジデント」においてはその誇張が際立っている。

 

収入と人生の成功は相関関係にあり、その行為がどこに由来するのか。

そんなことを日々取り上げている。

 

時々、気になって読んでみるのだが、私にはあまりにもあほらしく、もはや娯楽雑誌として読んでいる。

 

メモの取り方、日々の習慣、嫌われない方法、コミュニケーション術…

 

全部実行した暁には、徒労と不遇さに呆れ帰り、帰りの電車を待つすがら

ホームから飛び降りたくなることだろう。

 

私の場合、合わない人と合わせるつもりもないし、嫌われたのなら好かれたいとも思わない。これを可愛げがないといわれる理由だろう。だからといって、嫌われない方法を実行するつもりも無いのだ。ちなみに「プレジデント」では嫌われる男のパターンが行動、外見、会話、思考という4パターンに分類され、63の細かい項目に分かれている。あなたもきっとこの内のどれかに当てはまることだろう・・・

 

さてこれを実行するとどうなるかというと・・・といってもやる気がないので、よくわからないが、想像するに、丸の内や六本木、霞ヶ関あたりで颯爽とあるく、爽やか系好青年な会社員になれるのだろう。私は見た目はそうだといわれるのですが、喋ると残念だといわれます。それはこの嫌われる男のパターン思考、会話の項目において罰点がつくのだろう。

・嘘をつく

よくやります。最近ひどく、知らないことも知っているといい、適当に持ち合わせの知識を乱用しそれっぽく見せ相手を納得させる技術を体得しました。

・人の話を聞かない

興味がないと、全く聞いておらず、相手を呆れさせています。また、一人の人が同じ話を2度し始めたとき、私はもうなにも聞いていません。

・ありったけの知識をひけらかす

事実無根のことまで、もてる知識の大乱用です。ひけらかして何がわるい。

・下ネタがおおい

下の話をなくして何が語れるというのだろう。日本書記の話をするにも鳥のセックスから語り始めなければならないのに・・・

・目を見て話さない

見たいと思わせる顔なら目でもなんでも見るけれど、そうでもないのに毎度毎度、目も鼻もみたいと思わない。

・「いい人」でいたいため意見を言わない

意見する程の内容ならば、意見しますがね。「いい人」でいたいため、というのはどうゆうことかしら、嫌われる男の特徴に自己主張が強いというのもあります。意見をすることは自己主張をすることだし、意見をしないと嫌われる。この「強い」という程度はどのように計測すればよいのだろうか。

はて、意見はするべきか、しないべきか・・・

どうする日本男児!!

 

このようになんだかわからない成功への道はけわしい。

成功すると何か解脱できたり、法悦を体験できたり、はたまた大阿闍梨様になれるのだろうか。もしそうならば、私は身を粉にしてもこの63もある嫌われる男の項目にチェックが入らないように日々研鑽、努力を惜しまないだろう。

しかし、今猶ホームから飛び降りる人の数は減るどころか増える一方だと聞いている。

「合わない人」よりも「合わない環境」へあわせる強要がこの時代にはあるのでしょうね。ある社長の言葉に「いつも変わらない笑顔で、変わらない態度で、歩き続けられる人が勝つのです。」とあります。勝者とはなにか。

 

私はむしろ勝者の影に隠れた敗者が気になる。

いつも笑顔は気持ち悪いし、環境も時間も経れば人の考えも変わる、態度も様子も良くも悪くも変わるだろう。走ってみたくもなるし今日はゆっくり歩きたい、そう思うのが人間らしさだろう。それが醜悪だ、気分屋だ、はては病気じゃないか、とも思われるけれど、機械仕掛けの人形じゃあるまい、いつも笑顔なのはマクドナルドだけで留めておいてほしいものだ。あれほど気持ち悪いものはない。

 

日の当たらない影で蠢くもの、そんなものを勝者は踏みしだいてきたのだ。

その勝者は勝者である、それゆえに敗者という屍の上に立ってこぶしを突き上げたのだ。死者の上に立つ勝者は人殺しである。それは勇者とも呼ばれる。英雄ともいった。時に神にもなった。

 

ふと思い出す。

しりあがり寿さんの個展「回転展」に出品されていた作品のこと。暗闇のなかで、巨大な黒い碁石のようなものがゆっくりと回っていた。ただならぬ気配をかもしだしていた。後に図録を開くと、この碁石がピリオドだとわかった。漫画も添えられていた。

影でピリオドが回っている。それを足で踏んで止めようすると、影からオヤジがでてきて「回させておいてやれよぉ」と叫ぶのだ。

 

私は勝者の欲望というのが恐ろしく感じた。